English Chinese
「求人案内」へ 「予約電話について」へ 「よくある質問」へ
「TOPページ」へ 「病院案内」へ 「診療科の紹介」へ 「外来のご案内」へ 「検査のご案内」へ 「入院のご案内」へ 「お見舞いメール」へ 「交通のご案内」へ 「お問い合わせ」へ
TOPページ > 痔・大腸肛門病の先進的な治療法について > 痔核−PPH
このコンテンツは、辻仲院長編著による医師向け専門書「大腸肛門病ハンドブック」から一部を抜粋して紹介
させて頂いております。
なお、専門医向けの内容であるため、一般の皆様には難解な記述もあり、文中にはリアルな画像が含まれて
おります。 ご理解の上、閲覧していただくようお願いします。
■ PPH
T)はじめに
 代表的な痔の徴候として排便時の肛門出血、肛門痛および脱肛がある。このうち、脱肛は歯状線口側の肛門粘膜が肛門管外へ脱出する症候で、内痔核の腫大滑脱を伴うことがもっとも多く、また直腸粘膜脱や不完全直腸脱にも認められる。脱肛が常態化しているか、または排便時に脱肛があり用手環納できる状態を、症候的脱肛を起こす直腸肛門疾患と呼び、従来から手術治療の対象とされてきた。
 近年、Longo1)によるPPH(procedure for prolapse and hemorrhoids)が登場して、画期的な症候性脱肛治療の手術療法とされ、現在まで主としてヨーロッパで多くの経験がなされている2)〜4)
この方法が登場した背景には、程度の差こそあれ、主な従来の手術法Milligan−Morgan法5)やFerguson法6)またはmod-ified Ferguson法(日本では一般的に半閉鎖法7)と呼ばれる)の術後の肛門痛と、それに対する患者の恐怖が、肛門科医を外科的手術から遠さげる傾向にあったことにある。また日帰り手術をはじめとする患者の短期治療への要求や、医療費の削減という世界的な傾向も影響している。さらに外科手術縫合機器の進歩により、経肛門的な直腸粘膜の環状切除が可能となったことがあげられる。また一方、痔核の成因については、古くからあるvaricose vein theory8)のほかに anal lining tissue sliding theory9)が注目されるようになった。その結果、いたずらに痔核組織を全切除するのではなく、本来のanal cushions10)の機能的役割を保存または回復させることが、肛門手術の主たる目的1)11)とされるに至った。
 これらを背景にしたLongo法の特徴は、脱肛の起点となる直腸粘膜を環状切除縫合することで、緩み、下垂したanal cushions を吊り上げて、元の解剖学的位置に戻すことにある1)
これは同時に粘膜下のsu ‐perior hemorrhoidal vesselsを遮断するので、痔核組織の血液のinflowとoutflowを改善することで、充血腫大した内痔核を縮小させることになり、自然な下部直腸肛門の形態が回復されると考えられている1)
 この手技は、自動縫合器での直腸環状切除であるため、肛門管と肛門上皮に損傷がなく、術後疼痛がきわめて小さいとされている。

U)環状自動縫合器(PPH03)
プロキシメイトILS(PPH03)
図1 プロキシメイトILS(PPH03)
現在市販されているタイプは2004年5月前後より出荷されたエチコンエンドサージェリー社製のプロキシメイトILS(PPH03)である(図1)。従来のPPH01タイプと同じ外径33mmの頭部形状は変わりないものの、本体は白色から黒に変わり把持し易く軽量であり、アジャスティングノブを回転させて締め込む時、あるいはファイア後逆回転させて開く時の回転数が少ない。また一回転のストロークも調整されていて無駄がなく、操作時間の短縮になっている。さらにステイプルも0.75mmまで圧挫されることになって止血性能が向上した。旧型を用いた時よりも軽くグリップも良く操作性に富み、ファイア時の力も少なく、出血も少ないと予想させている。

V)PPHの手技
図2-a 図2-b
図2-c 図2-d
 まず痔核治療にあたり、患者に対して現在まで報告されているPPHの特徴や合併症、術後成績など利点欠点について詳しくインフォームドコンセントがなされる必要がある。この際の説明では、腰麻や局麻下ではPPHのステイプラー締結前後で下腹部牽引痛が起り得ることや術後ステイプルの縫合部哆開による出血のリスクもある12)13)ことを述べておくことが大切である。
 当院では標準的には腰麻下で浅いジャックナイフ体位でPPHを行う。十分に麻酔が効いてきたところで患者に怒責させて痔核脱出の大きさや形態を計測記述しておく(図2-a)。続いて脱肛を還納し用手的に肛門を拡張してPPH用の肛門拡張器全体が容易に挿入できる程度か確認する(図2-b)。この時無理に拡張すると肛門括約筋に損傷を与える危険がある。図のように4指入らない時は、肛門拡張器内筒さえ入ればステイプラー本体は挿入可能なので、拡張器の外筒を用いなくともPPH手技は可能12)14)である。通常腹臥位の体位では、手術助手が肛門拡張器外筒をしっかり肛門皮膚に密着安定させて置けば拡張器外筒を肛門皮膚に縫合固定する操作は不要である(図2-c)。
 次に最も重要な巾着縫合に移る。巾着縫合用肛門鏡(PSA)を挿入あるいは引き出して再挿入しつつ直腸肛門粘膜を観察する。摂子や痔核鉗子を用いて痔核脱出粘膜を引き上げ歯状線より4cmのところにバイポーラなどで最低3〜4ヶ所マーキングしておく(図2-d)。
図3-e 図3-f
図3-g 図3-h
 痔核の大きさには必ず差がある。サイン曲線のように波立たせたりする必要はないが、全周でギャップの無いように6針程度で粘膜下層を運針する。巾着用の針は2-0 proleneを用いている。巾着縫合の開始位置は著者は好んで左右いずれかの側方から始めることにしている。また巾着縫合後PSAを抜去して巾着が適切に行なわれたかどうか確認した後に再度PSAを挿入し、巾着開始した反対側に巾着縫合線をくぐるように縦に1本の支持糸をかけるようにしている(図3-e)。これは図3-fのように左右から牽引用の糸が出ていることになり、均等な力で直腸粘膜をハウジングケースに収納することで安定した形状と幅の環状切除を可能としている。
 次にステイプラー本体を最大に開いて肛門管内に挿入し、アンビルを巾着縫合に通して巾着縫合を1回だけ縫合する。この際アンビルヘッドが必ず巾着の口側にあることを確認し、またアンビルシャフトに巾着が密着していることを見て置く必要がある(図3-g)。左右から引き出した糸は一度結び、さらにペアン鉗子で固定して中等度の力で中指にかけて引き込む。同時に示指と拇指でステイプラー本体を把持しながらアジャスティングノブを最後まで回しきる(図3-h)。ギャップセッティングスケールの目盛は緑色のインジーターを振り切るところまで締め込むことになるが、その際下腹痛を訴えるので患者をよく観察することが大切である。安全装置をはずしてファイアまで30秒間待つ。この時間、またファイア後に同様に30秒間待つことの意味についてはエビデンスはない。しかしながらLongoをはじめとする多くの発表も同様な手順を行っていること、ステイプラー締結による圧迫止血効果も考慮するとその待機時間を議論する余地は小さい。したがって、PPHとしての推奨手順に沿ってファイア前後で30秒待つという手技を行うことに矛盾は生じない。
図4-i 図4-j
図4-k 図4-l
 その後アジャスティングノブを半回転させ、肛門拡張器外筒と一緒にステイプラーを肛門外に抜去し、直ちにアジャスティングノブを回して全開にして切除された粘膜が環状かどうか、また十分な幅があるかどうか確認する(図4-i)。通常切除された粘膜は平均2〜3cm幅で細長い長方形になる12)のであるが、組織学的にも検索すると多かれ少なかれ筋線維が含まれている15)
 次にPSAを再挿入して出血の有無を確認し拍動性の出血があれば痔核把持鉗子などを用いてステイプルラインに直交するようにして単またはZ縫合止血する(図4-j)。この止血操作にはもはや肛門拡張器外筒は不要でPSAあるいは筒型肛門鏡でも行い得る。一旦すべて止血を終えた後にもしばらくして待機して一呼吸おき、有柄肛門鏡で吻合部を確認すること(図4-k)、また歯状線から吻合部まで距離を測り、およそ2cm前後になっているか確認することも忘れてはならない。

W)PPHの適応についての考察と結果
表1 PPHの適応と除外
 痔核の脱出症状は、anal cushionsが肛門外へ滑脱して生じる10) 。また同時に、anal cushionsを構成する繊維血管性組織は充血腫脹して結節状に膨隆し、時に巨大痔核となる。当院では、痔核の治療原理13)から、PPHはV度以上の外痔核成分の小さい全周性の痔核を適応としている。また、脱肛を主訴とする直腸粘膜脱や不完全直腸脱にも適応があるが、痔瘻や裂肛を併発している例や、肛門の拡張が不良な例は避けるべきと考えている。PPHの適応と除外を表1に示す。特にV度の痔核でも脱出が変側性の例では、下部直腸粘膜を全周環状切除によって吊り上げるPPHは過剰な手術手技ともなり得るので、従来の結紮切除が望ましいと思われる。

X)PPH03の性能と特徴
図5 追加縫合針数の比較
図6 術後出血の分布
図7 手術満足度比較
 旧型のPPH01との比較結果を図5〜6に示す。PPH03は旧型に比して止血縫合回数が有意に少なくなっている。それは止血に要した追加縫合数が減るあるいは不要になったことで手術時間の短縮につながる。また、アジャスティングノブの締め込み回転数が減ったこととファイア軽快で確実な操作性も加味するとPPH03の新型は成功したと評価できる。しかし、一方現在まで術後出血に対して再手術で止血処置した例や、炎症性外痔核成分の切除あるいは吻合部の用手拡張(指によるブジー)などの再処置が認められている。初期の例では5年を経過したPPH01タイプの累積再処置率が6.5%であるので、いまだ約300例の経過とはいえ術後成績を変え得るまでには至らないものと思われる。

Y)PPHによる患者満足度
 最後に、PPHによる患者満足度について述べる。6ヶ月、24ヶ月、48ヶ月のexcellent、good、fair、poorの4段階の評価を図7に示す。4年経過例においてはPPH群67.3%SC群67.7%のexcellentがあり、goodも加えるとPPH群91.5%、SC群94%に達した。SC群の方がPPH群よりも少しながら満足度が高いが特に問題となる差ではなく、PPHは結紮切除(半閉鎖;SC)と変わらない手術結果を患者にもたらしているといえる。

【Mini Lecture】
PPHはエチコン社の商品であると同時に手術法でもある。開発者のA. Longo博士自身は、Stapled anopexy と呼んでいる。日本に導入された頃は当初Longo法と言われていた。痔核組織そのものを切除して治すのではなく、痔核が肛門外へ滑脱しないように肛門組織を固定して治す(吊り上げ固定)ことからanopexyと言うのである。しかし、欧米の一流の大腸肛門科医の総合討論の結果、PPHをStapled hemorrhoidopexy と呼ぶように合意された17)。従って、一時的に論文で使用されたStapled hemorrhoidectomyという呼称は無くなった。PPHによって痔核そのものは切除せず、その脱出などの症状を治癒せしめる意味である。

【Onepoint Advise】
巾着縫合をどの様にするかがPPHの成否を決める。通常Proline2.0を用いて歯状線から4cm程度口側の直腸粘膜または粘膜下層にとぎれることなく全周に直腸軸に対して垂直に刺入する。巾着縫合の開始位置は砕石位かジャックナイフ位かによって術者が行い易い方向からで良い。著者は側方向から刺入を始めるが、砕石位を好む術者では6時方向から開始するのが良いとする意見もある。巾着の際に血腫を誘発することが多々存在し、その後の手技の継続や術後成績にも影響するので、可能な限り粘膜固有層内を細かく運針して行くことが大切である。しかし、血腫が起きたとしても中断することなく巾着を終了し、しばらく示指圧迫後縫合器の操作を継続する。

【Pitfall】
PPHをはじめる際はどうしても巾着縫合の意味が誤解されて、歯状線そのものをよく確認しないで適当に運針されていることが多い。特に女性で前方は腟側に当たるので、深く巾着針を刺すと直腸腟間隙を損傷して直腸腟瘻を来たす可能性がある。またファイア終了後引き抜く時に粗暴な操作をすると外筒に縫合器が引っかかってstaple lineを損傷することがある。さらに、縫合止血の時に大きく縫合すると逆に後日壊死脱落するため後出血を引き起こす。動脈性出血のみを小さく確実に縫合止血し、静脈性または痔核そのものからの出血はバイポーラ止血を手際良く行うことで良い。くれぐれも痔核も一緒に大きく縫ってしまわないことが大切である。

参考文献
1) Longo A : Treatment of hemorrhoids disease by reduction of mucosa and hemorrhoidal prolapse with a circular
  suturing device ; A new procedure, 6th World Congress of Endoscopic Surgery, 1998, 777-784
2) Beattie, G. C. and London, M. A.: Circumferential sta-pled anoplasty in the management of haemorrhoids and
  mucosal prolapse. Disease,2: 170-175,2000.
3) Mehigan, B. J., Monson, J. R. T. and Hartley, J. E.: Stapling procedure for haemorrhoids versus Milligan-Morgan
  haemorrhoidectomy:Randomized controlledtrial.Lancet,355:782-785,2000.
4) Nystrom, P. O.: Symposium: Colorectal disease in the new millennium.vol.2, Fort Lauderdale, Florida, February
  18th, 2000.
5) Milligan, E. T. C., Morgan, C. N. and Jones, L. E.: Surgical anatomy of the anal canal, operative treat-ment of
  haemorrhoids.Lancet, 2: 1119, 1937.
6) Ferguson, J. A. and Heaton, J.R.: Closed hemor-rhoidectomy.Dis.Colon Rectum, 2:176, 1959.
7) 岩垂純一:痔核の手術;半閉鎖術式を中心に.手術,48:1577-1583,1994.
8) Parks, A. G.: Hemorrhoidectomy.Adv.Surg., 5 : 1,1971.
9) Haas, P. A., Fox, T. A., Jr. and Haas, G. P.: The pathogenesis of hemorrhoids. Dis. Colon Rectum,27:442,1984
10) Thomson WHF: The nature of hemorrhoids. Br J Surg 62: 542-552, 1975
11) 高野正博:肛門上皮,Cushion温存痔核根治術.日本大腸肛門病会誌, 42:1-9,1989.
12) 辻仲康伸,浜畑幸弘,東博:痔核粘膜脱に対するPPHの手技と合併症. 消化器外科 24 : 1255-1263, 2001
13) 辻仲康伸,浜畑幸弘,松尾恵五: Circular Stapler による痔核手術(PPH)と術後成績. 日本大腸肛門病会誌
  54: 896-900, 2001
14) 松尾恵五, 辻仲康伸, 浜畑幸弘,堤修:内痔核のPPH手術.手術 58: 967-972,2004
15) Esser S, Khubchandani I, Rakhmanine M: Stapled hemorrhoidectomy with local anesthesia can be performed
  safety and cost-efficiently. Dis Colon Rectum 47: 1164-1169, 2004
16) Corman ML, Grave JF, Hager T, et al:Stapled haemorrhoidopexy: A consensus position paper by an international
  working party-indications, contra-indications amd technique. Colorectal Dis 5: 304-310, 2003

使用論文初出
痔核粘膜脱に対するPPHの手技と合併症
消化器外科,24:1255-1263,2001
痔核の治療
Circular stapler を用いた痔核手術(PPH)
消化器外科,28:331-337,2005
痔核の大きさによるPPH手術成績の差
日本大腸肛門会誌(年間1-10号)第56巻第10
号 2003年10月.辻仲康伸ほか
肛門部疾患診療最前線
2007診断と治療社
← 前のページに戻る ↑ このページのトップへ
「痔核」へ
 ・PPH
 ・結紮切除術
「直腸瘤」へ
 ・直腸瘤の診断
 ・経肛門式修復
 ・経腟式修復
 ・GYNEMESHによる修復
 ・S.T.A.R.R.
「直腸腟瘻」へ
 ・直腸腟瘻の診断と治療
 ・直腸移動弁修復術