診療概要

前立腺肥大

位置と役割
前立腺は膀胱の出口に尿道を囲むように存在し、正常は胡桃大(約20g)の大きさです。 その役割は生殖機能で、前立腺特異抗原(PSA)を産生することです。PSAは近頃、前立腺癌の腫瘍マーカーとして有名になりましたが、糖蛋白プロテーアーゼという酸素で、これは射精された精液を液化し、精子を動けるようにし、また女性の膣内の酸性液を中和して受精しやすくする働きがあります。
 
前立腺肥大症の成り立ち
さて、前立腺は便宜上内側の領域(内腺=移行領域)と外側の領域(外腺=辺縁領域)に分かれます。その内腺のうちに結節ができ、それが発達増大し次第に内腺の大部分を占め、 外腺を被膜のように薄く圧迫した状態が、前立腺肥大症の完成です。ここでリンゴをイメージすると芯の部分を中空にした部分が尿道で、実の部分が肥大症部分、皮の部分が外腺となります。また主に皮の部分から癌が発生します。つまり、内腺から肥大症、外腺から 癌が発生すると覚えてください。
では、いつ頃からどんな人が前立腺肥大症になるのでしょうか。組織を調べると40歳代の後半からボツボツ前立腺肥大症の組織変化を持つ人が現れ、50歳代で半分、60歳代で7割は膳立腺肥大の組織を持つといわれています。食事では脂肪摂取は前立腺を増大させ、糖尿病は肥大症を悪化させ、アルコールと煙草は肥大症を減少させるとの報告があります。
 
症状
大きく分けて2種類の症状があります。ひとつは前立腺が大きくなることで尿道を圧迫する閉塞症状です。これは皆さん判りやすい症状で、尿道が塞がれることで起こる“いきむ”、 “尿が細い”、“排尿に時間がかかる”です。更に膀胱の出口から尿道の周囲にかけて筋組織が存在し、この細胞にはアルファワンアドレナリン受容体という細胞膜装置が備わり、 ノルアドレナリンに反応してこの筋肉が緊張すると閉塞症状がさらに悪化します。
 もうひとつは膀胱尿道刺激症状で膀胱炎に似た症状で“おしっこが近い”“我慢できない”“し足りない”です。刺激症状の原因ははっきりわかっていません。
 
診断
先ほど述べた閉塞と刺激症状が出る病気はほかにどんなものがあるのでしょうか。
実は膀胱、膳立腺、尿道を下部尿路組織といいますが、その全ての疾患が大なり小なり似た症状を呈するのです。また1日の尿量、神経疾患も影響を与え、過活動膀胱、神経因性膀胱、慢性前立腺炎、夜間多尿、睡眠障害、膀胱容量低下、心因性頻尿など種々の状態が前立腺肥大症と判別しなければなりませんし、またしばしばこれらの状態前立腺肥大症と同居していて診断・治療を難しくすることがあります。

尿検査
初診の患者さんには必ず尿検査を行ないます。これによって急性の炎症と尿路癌は概ね除外できるのです。
PSA
採血でPSA前立腺特異抗原を調べます。前立腺癌との区別で現在必須の検査となっています。なぜなら、前立腺癌はいまや国民病となりつつあり、数年内に男子癌発生率の第一位になると考えられているからです。
PSAの正常値は4.0 ng/mlが上限ですが、4から10まではグレイゾーンといわれ前立腺肥大症と前立腺癌どちらとも解釈できる値です。最初に説明したとおりPSAは本来正常組織から作られる物質ですから、当然前立腺肥大症からも作られるわけです。

超音波検査
前立腺の大きさを計測します。超音波検査では探査針をどこにおくかで、経腹的と経直腸的に分かれます。日常的には経腹部的エコーを行っています。正常の前立腺は西洋胡桃の大きさで20cm立方といわれておりますので、それ以上を前立腺肥大症とします。この検査で必要なことは尿貯留がないと腹部エコーでは前立腺計測ができないことです。超音波検査ではその他膀胱を観察して、偶然の膀胱癌や膀胱憩室などをチェックします。また前立腺肥大が進行すると残尿が出現しますので残尿測定をする場合もあります。

尿流量測定
超音波検査時尿を貯めていますので、検査直後、尿流量測定を行います。センサーのついた装置に排尿してもらいますと。排尿時間と尿の勢い(尿流速度)が表されます。最大尿流率。排尿量の三つをパターン化したノモグラムとの比較から障害程度を推測します。

触診
前立腺の大きさを調べる方法で古典的な方法ですが、経直腸触診を行います。必ずやらなければならない検査です。これで分かる事は前立腺の大きさが大体大中小に分けられることと、進行した前立腺癌の硬結が触れること触診時の痛みにより慢性前立腺炎がわかることなどです。

IPSS
治療に移る前に前立腺肥大症の症状の評価方法にIPSSというものがあります。国際前立腺症状スコアの略で、患者さんに7項目の症状のうち当てはまる部分に丸をつけてもらって それぞれの項目の決まっている点数を合計して排尿障害の重症度を決めるものです。0~8が軽症、9~19が中等症、重症が20点以上が目安です。

内視鏡
内視鏡は肥大書の診断には必須の検査ではありませんが、手術すべきを判断する場合には必ず行います。前立腺肥大症は良性疾患ですので患者さんの日常生活の質を高めるために行うのが目的ですので、手術の効果、出血量手術時間の予想などを立て、より安全に効果的に手術を行うのに必須の検査です。

膀胱内圧測定
膀胱は尿がたまるにつれ内圧が一定のパターンで上昇していきます。これを測定して正常パターンかどうか調べるのが膀胱内圧測定です。膀胱内圧測定は、神経障害(脳梗塞の後遺症など)が合併しているときに行います。排尿障害が前立腺肥大症と合併する疾患のどちらの影響が強いかによって治療の選択をします。

治療
前立腺肥大は良性の疾患で、かつQOLに関係し、解剖学的所見と症状が一致しないものですから、総合的な判断で治療選択すべきと考えます。

経過観察
先のIPSS(国際前立腺症状スコア)で点数が8点以下の場合のような軽症の段階では日常生活で支障がない場合が多く治療をしない場合もあります。

内服治療 α1ブロッカー
α1ブロッカーはα1アドレナリン受容体に競って結合して平滑筋の興奮を抑制する物質です。この十数年間 前立腺肥大症の治療の中止となってきました。効果は2週間~4週間かかるとされています。閉塞症状(いきむ、細い、時間がかかる)、刺激症状(近い、我慢できない、し足りない)の全てに効果が期待できます。副作用としては、血圧低下(5パーセント以下)、めまい、頭痛、倦怠感(10~15パーセント)などです、原因はもともと、α1ブロッカーは心血管系の平滑筋と脳内に多く存在し、そちらも反応してしまうからです。ただし、副作用の頻度が少ないのは前立腺肥大症目的の薬が主に尿道周囲の平滑筋に選択性に結合するからです。

内服治療 5
α還元酵素阻害剤
内服治療で最近発売となったのが5α還元酵素阻害剤です。この薬は前立腺肥大を退縮させる作用があります。男性ホルモンは主に睾丸で作られ、テストステロン形で組織に作用しますが、その後代謝され、まず5α還元酸素でデヒドロテストステロン略してDHT に変化します。このDHTへの 過剰な変換が前立腺肥大症の原因になるといわれています。この還元酸素の阻害薬が数年前発毛剤として発売され、同時に前立腺縮小効果も認められたことから今回の発売につながりました。Α1ブロッカーと違って即効性はなく、最大の縮小効果までは3ヶ月から半年かかります。副作用は性欲減退と勃起不全が3~5パーセント起こります。もうひとつの問題は前立腺癌との関係です。5α還元酸素阻害剤は前立腺癌の腫瘍マーカーである。PSA値を半減させます。内服開始前に必ずPSA値を測る必要があり、泌尿器科医以外で安易に処方すべきものではありません。現在のところ潜在的な前立腺癌に対しては影響がないといわれています。

手術
現在手術療法は用いる装置により電気、レーザー、マイクロ波、超音波の4種類方法により切除、蒸散、温熱があります。装置方法の組み合わせで、少なくとも5種類の手術法がありますが、治療費効果の点で一長一短があります。ここでは一番多く行われている方法と、将来有望な方法を説明します。
 まず国内の95パーセントに行われている術式は経尿道的前立腺(電気的)切除術です。略してTUR-Pです。95パーセントという数字から判るように、最も確立、安定した方法です。通常交流電流の通った切除ループで前立腺を内部から切除していきます。切除の際出血で視野が塞がれること、切除した組織がそのまま残っていると次の切除ができないことから、透明な液体で持続的に流しながら行わねばなりませんが、それを灌流液と言いますが、灌流液が例えば生理食塩水など電解質が含まれると、ループから電流が放散し、切除できなくなります。そこで、一般に灌流液には電解質が含まれていない特殊な糖類の液が使われます。手術時間は大体1時間から2時間ぐらい、合併症としては、術中は出血による貧血、穴を開ける穿孔、灌流症候群術後は括約筋まで間違って切り込むことによる尿失禁と逆行性射精です。
 逆行性射精は性行為の最後に精液が出ないで、膀胱のほうに行ってしまう状態です。射精口は前立腺より先に存在し、前立腺側が塞がることによって、精液が前に進むので、手術によりその機能を壊すことが多いのです。TUR-P以外でも、排尿障害の改善効果が高い手術は、装置方法を問わずに逆行性射精が起こる可能性が高いのです。
 穿孔や尿失禁は熟練者はほとんど経験しません。
貧血は手術時間に比例します。手術時間は切除重量に比例します。もちろん熟練した技術の元では、出血量は減りますが、メスの切り味もかなり影響します。
灌流症候群は穿孔や手術に時間がかかると、血管内に灌流液が入って血液が灌流液により薄まって低いナトリウム血症となる水中毒のことです。先ほどの灌流液の説明で電解質が含まれていないことがあだになっています。

TU
ris
ところで当院では第二世代のTUrisという器械を使っています。これは従来の対極板を人体側に使用せず切除筒を通して電流を回収する方法です。灌流液に生理食塩水が使用でき、灌流症候群の危険性はなくなります。またメスの切り味が従来よりずっとよくなり出血量も少なくなります。国内では今後この器械が主流になると考えられます。

尿道留置ステント

尿閉患者で高齢や合併症で手術ができない人に対して前立腺尿道部にステントを留置する方法です。半年毎に交換の必要があり、尿路感染になることが多く、膀胱結石ができ易いことなどの欠点を考慮のうえ選択すべきでしょう。